歯科パノラマX線画像による骨粗鬆症スクリーニング
骨粗鬆症と骨折
骨粗鬆症は骨が脆くなり脆弱性骨折と呼ばれる骨折を生じる疾患です(参考文献 1)。
骨粗鬆症の発症は年齢および性別と深く関連し、50歳代以降の女性で顕著に罹患率が上昇します。そのため高齢化が進行している日本では推計患者数が1,300〜1,500万人を上回るとされています(参考文献 2)。
骨粗鬆症による骨折は大腿骨近位部、椎体(腰椎)、橈骨遠位端(手首)に起きることが多く、なかでも大腿骨近位部骨折は骨折1年後の死亡率が10%に達するとされています(参考文献 3)。大腿骨近位部骨折のみならず、椎体骨折においても著明なQOL(Quality of Life、生活の質)の低下と死亡リスクの増大につながります。
また、骨粗鬆症の脆弱性骨折により、手術後も社会復帰できずに「寝たきり」介護へと進んでいくケースが増えています。骨粗鬆症により、2025年には年間2兆円の医療・介護費が費やされることになります。この費用は今後も高齢化の進行とともに拡大が継続していくと予想されています(参考文献 4, 5)。
歯科パノラマX線画像による骨粗鬆症スクリーニング

歯科では最近、歯科診療のために撮影されたパノラマX線画像で下顎骨下縁の皮質骨の形態を観察し、歯科医師が骨粗鬆症の可能性がある患者をスクリーニングする方法が注目されています(参考文献 6)。
しかし、この方法は専用の機器やソフトウェアが無いために歯科医院に普及していません。メディア株式会社は、人工知能(AI)画像処理技術によりパノラマX線画像を自動的に解析し、歯科医師が顎骨脆弱度の評価に基づいて骨粗鬆症の可能性を検知することを支援するソフトウェアを開発しました。
このソフトウェアは歯科領域として初めて承認されたAIプログラム医療機器です(参考文献 7, 8)。また、医療従事者向けに、骨粗鬆症および骨吸収抑制薬による薬剤関連顎骨壊死に関する医科歯科連携を支援するWebサイトも稼働しています。
歯科用骨粗鬆症スクリーニングAIソフトウェア
デジタルパノラマX線画像を入力して以下の項目の計測/解析をおこない、顎骨の「脆弱性変化」を評価して骨粗鬆症スクリーニングを支援するソフトウェアです。
1) 下顎骨下縁の皮質骨を検出して、オトガイ孔付近の計測ポイントを明示する
2) 皮質骨の厚さ(Mandibular Cortical Width:MCW)を計測する
3) 皮質骨の形態(粗鬆の程度)を示す骨形態指数(Mandibular Cortex Morphology index:MCMI)を求める
4) 下顎皮質骨形態の分類(Mandibular Cortical index:MCI)をおこなう
〈参考文献〉
1) Assessment of fracture risk and its application to screening for postmenopausal osteoporosis: report of a WHO study group [meeting held in Rome from 22 to 25 June 1992]. WHO technical report series 1994,843.
2) Noriko Yoshimura, et al. Trends in osteoporosis prevalence over a 10-year period in Japan: the ROAD study 2005-2015.J Bone Miner Metab.40(5):829-838, 2022.
3) Sakamoto K, Nakamura T, Hagino H, Endo N, Mori S, Muto Y, Harada A, Nakano T, Yamamoto S, Kushida K, Tomita K, Yoshimura M, Yamamoto H. Report on the Japanese Orthopaedic Association’s 3-year project observing hip fractures at fixed-point hospitals. J Orthop Sci. 2006Mar;11(2):127-34.
4) 萩野浩 , 近藤暁子 , 大﨏美樹 . 骨粗鬆症の医療経済 . THE BONE. 2009;23:47-51.
5) 原田敦 , 松井康素 , 竹村真里枝 , 伊藤全哉 , 若尾典充 , 太田壽城 . 骨粗鬆症の医療経済 ―疫学 , 費用と介入法別費用・効用分析― . 日本老年医学会雑誌 . 2005;42(6):596-608.
6) Taguchi A, Tanaka R, Kakimoto N, et al. Clinical guidelines for the application of panoramic radiographs in screening for osteoporosis. Oral Radiology. 2021;37(2):189-208.
7) 丸尾修之 , 豊嶋健治 , 勝又明敏 . パノラマX線画像を用いた骨粗鬆症予防に関する香川県医科歯科連携事業 . 日本歯科医療管理学会雑誌 . 2019;53(4):206-211.
8) 勝又明敏 . 人工知能による歯科X線画像からの骨粗鬆症スクリーニング . 日本骨粗鬆症学会雑誌 . 2023;9:461-466.
勝又 明敏 (Akitoshi Katsumata)

1987年 朝日大学 歯学部 歯学科 卒業
2011年 朝日大学 教授(現在に至る)
日本歯科人工知能研究会(代表理事)
日本歯科放射線学会 他
朝日大学歯学部卒業後、歯科放射線学講座の助手、講師、准教授を経て教授に就任。現在は画像診断の臨床および人工知能ソフトウェアの研究開発に従事。

